應援團戦記

大学応援団の日々を綴るブログ…あなたの大切な思い出は何ですか?

君は栄光を知る  - 箱根駅伝 2 -

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* 前章に続き、早朝の復路応援の様子。日の出前だが、早くも車両規制が行われている。

 

天佑を恃まん 

復路応援の朝も早い。宿泊した小涌園を 僕らはバスで出発、しかし応援場所には直行しない。向かった先は箱根神社。応援団の初詣は、出陣に先立つ戦捷祈願から始まります。

限られた移動時間なので、湖畔の鳥居にて遥拝。神仏の類を一切信じない僕も、祈りに祈りました。そしてリーダー部全員が、1つの湯呑みで 剣菱( ウチの団御用達の日本酒 )を回し飲み…それを地面に叩き割る。特別攻撃隊の記録映像でしか見たことのない水盃だった。団長より訓示があり、死ぬ気で応援せよと…狙うは32年ぶりの総合優勝です。

 

午前 7:30  復路応援が始まりました。僕らの声は、前日から既に嗄れ切っている。手の平も一面、あかぎれのように血でひび割れていた。乾いた真冬の応援は、夏とは違う痛みを伴います。

とりわけ苦労を強いられるのは各校の旗手。復路の早朝は この世のものとは思えぬ強風が吹き荒れる。大団旗は幻の大魚を引いた釣り竿状態。それは箱根に棲む魔物そのものでした。大間のマグロ漁師でさえも、維持困難であろう重さに達します。僕たちは万一の破損に備え、予備のポール3組( 旧大団旗、中団旗、小団旗 )をバスに積んでいました。恐らく他大学でも 同様の準備をしていると思います。

 

 

優勝への追跡 

8:00 往路優勝の早稲田がスタートを切りました。伝統の 臙脂 に W のユニフォームが軽やかに遠ざかる。美しく地面を蹴る姿は、カモシカのそれだった。ひたむきな表情に危うく “ 頑張れ! ” と叫びそうになるところだったが、そうはいかない。彼らには、悲嘆の涙と共に沈んでもらわねばならないのだ…

その2分後、我が校がスタート。絶え間ないOB達の檄に力が入り、胸を反らして声を張り上げる。6区走者は僕らの前でガッツポーズを見せ、親衛隊が旗礼をもってこれに応える…目の前を駆け抜ける一瞬の出来事でしたが、応援団にしか分からない感動的な一幕でした。

 

選手を見送った僕らは 芦ノ湖の人混みを離れ、再びバスへ乗り込む。そして今日も酒盛りが始まりました。話題の中心は “ 何区で追いつけるのか?”

…その時は思いがけず早く訪れました。6区半ばにして早稲田を捕捉、我が校は今や首位に。早稲田の猛追を7区で振り払った後は、他校の追随を全く許さぬまま最終区へ突入。

 

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 * 復路・大手町。この校歌は僕が最後に振ったリーダーとなった。

 

 その栄誉、万世に燦たり 

最後の応援、復路・大手町。スタート時にも増して、ものすごい人混みでした。一般学生も大勢いて、友人たちが手を振ってくれる…でも下級生の僕は気付かないふりしか出来なかった。

…ここでも四度ひるがえる大団旗。ランナー達は刻々と読売新聞社前に近付いています。現在の様にスマホのTVで順位確認なんて訳にもいかない。車内ではへべれけ同然だったOBが、携帯ラジオをイヤホンで聴きながら、レース経過を逐次教えてくれる。戦馴れした配慮はさすがです。

 

応援場所周辺は異様な熱気を帯びていました。集まった人々は、優勝を確信して疑わない。僕らは複雑な応援をせず、最終走者の名前をひたすら連呼…早く来いと焦りばかりが募る。一部のOBを除けば、最後に優勝を目撃した者はほとんどいないのです。

その時、OBの1人が叫びました。『 …来るぞ!』 あの瞬間は生涯忘れられない。漣のようなざわめきが巨大な歓声に変わり、怒涛となって押し寄せる…人垣で選手は全く見えない。けれどそのすぐ向こう側にランナーが疾駆しているのが、僕にも見える気がしました。後にも先にも、全てがスローモーションのように感じたのはこの時きりだった。あまりにも漫画じみた光景だった。がむしゃらに拍手をぶったたき、ただ夢中で叫び続けた。何度も何度も “ いいぞ 中央 ” を放った。学ランの背中を流れる汗が生温かかった。

 

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 * 走者たちを迎える団旗群。右から 中央、早稲田、山梨学院。紫紺の団旗の下には僕らがいる。

 

箱根駅伝制覇…32年ぶりという時間の長さを実感するには、僕らは若過ぎたかもしれない。けれどその重みと、母校の歴史の一端に立ち会っていることは 痛いほど理解できました。

普段は多くを語らぬ副団長が、珍しく僕らの労をねぎらってくれる。彼は独り言のように『 これで安心して引退できるな…』と笑顔を見せてくれました。

耳を聾する陸上部への喝采の中、静かに去り行く幹部たち。周囲で湧き上がる万歳三唱。誰もが興奮に心奪われ、応援団をかえりみる者はいない。途轍もなく大きな栄光の影で、それぞれの道を歩かんとする…それは正に、中大応援団の花道だった。

 

 

 * 本章 並びに前章に掲載の写真は、全て筆者4年時のものです。

 1年時の事を綴った文面ですが、応援の雰囲気が伝われば幸いです。