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應援團戦記

大学応援団の日々を綴るブログ…あなたの大切な思い出は何ですか?

夏の終わりに  - 夏合宿 4 -

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* 写真は春合宿の総仕上げ後。2列目一番左が筆者です。

 

夕空の応援歌 

夏合宿も佳境に入りつつあります。最終日の “ 総仕上げ練習 ” に向けて、猛練習が続きます。我々の表情も、更に引き締まったものになっていました。中日 (なかびに下級生だけの時間を得たことや、練習での結束を高めたことも理由の一つかもしれません。あれ程厳しく臨んだ特殊拍手は、今やリーダー部長のあらゆる指導を満載したものに仕上がろうとしていました。

 

迎えた練習最終日、その最後に待ち受けるは “ 応援歌百番 ” 。これは我が団の合宿恒例でした。応援歌1番をひたすら100回。他大でよく聞く “ エンドレス ” みたいなものです。1曲あたり1分ちょっと。2~4年全員で2時間に渡り、代わるがわるメインリーダーに立ちます。もちろん幹部以外はサブと兼任です。

僕が何回目かのメインに立った時、1年生たちの顔が 汗か涙か鼻水か…ぐしゃぐしゃになっていることに気付きました。自分のリーダーに意識を集中せねばと思いますが、前練習からの出来事一つ一つが走馬灯状態。心が動かない訳がない。腕立てやお尻の生傷、鉄アレイ、おりゃおりゃ、大好物の拳立て…思えばいろいろありました。ようやくここまで辿り着いたのだと…右腕から繰り出す突きにも、最後の力が宿る。

 

やがて僕らの応援歌は百番を数えました。それは夏合宿の全練習が終わった瞬間。辺りは秋のにおいがするオレンジ色の夕空でした。地獄の幹部の仕事もここまで。彼らは最後に、下級生一人一人の名前を冠した 『 がんばれ 〇〇!』を贈ってくれました。それは決して忘れ得ない、人生で最高のプレゼントの一つです。

 

 

 【 満員御礼 

翌日、僕らは総仕上げ練習の朝を迎えました。これは監督や指導に来てくれた卒業生、そして宿舎の方々に成果を披露するもの。ですが今回は地域住民の方々を招待して、大々的に予定されていました。事実上は本格的なリーダー公開でした。合宿初日以来、久し振りに袖を通す学ラン。腕章の重さが心地いい。『 やっぱりこうでなきゃ 』と気持ちが昂ぶります。

 

成果発表の舞台は中学校の体育館。本当に人が集まるのか半信半疑だった僕に、先輩がそっと会場をのぞかせてくれました。…大勢の人でいっぱい。小中学生はもちろん、農家や地元神社の宮司さんまで。紅白帯で彩られた貴賓席には、村議会議員のお偉いさんも。何だか出征兵士の見送りみたいだと思いました。観衆の中には、3年生たちがエロ本を買い求めたお店の人もいたはずです。

後になって知らされたのは、500名以上の方々が集まったとの事。小さな村の動員力は、僕ら応援団を遥かに凌ぐ。夏合宿がいつしか、村を挙げてのイベントになっていようとは…。滞在した弥彦村は一面の田んぼと緑。娯楽といえば公営競輪場があるくらい。大学応援団など見たこともない人たちばかりです。

 

お世話になった場所への恩返しのステージ。終ってみれば大盛況でした。普段なら一般ウケも微妙な特殊拍手ですが、拍手喝采のうちに終えることが出来ました。未熟な2年の分際ゆえ、完璧なリーダーとは程遠いものだったかもしれない。それでも初めての披露の場で、大勢の衆目を集められたことは幸せでした。幕引きにはもちろん、村へのエール。素直に喜んでもらえた、それだけで十分でした。

帰り際にはスイカやスポーツドリンクの差入れを、あり得ない程ごっそり頂きました。

 

 

夏の終わりに 

宿舎のお寺に帰った僕らは、感傷に耽る間もなくパンツいっちょになります。そしてバケツやヤカンを手に、全員が裸足で庭に躍り出ました。夏合宿千秋楽の行事、 “ 水かけ ” が始まります。その名の通り、僕らは水をぶっかけ合う。

それは夏合宿数十年来の伝統でした。この時ばかりは無礼講。僕らはお寺の方からホースも借り、蛇口全開で幹部へ向けて高圧噴射。先輩たちに遠慮なく水を浴びせます。副団長や親衛隊長がいやがって逃げる様子は、思い出すだけで可笑しくなります。

1年坊も負けてはいない。『 団長、お覚悟!』と、練習の鬱憤をぶちまけます。鬼のリーダー部長も、小学生のように無邪気な姿を見せてくれました。ここでも一番の役者は、エロ本隠匿事件のY君。彼は背後から忍び寄る僕たちにトランクスを下ろされて、毛むくじゃらの団旗ポールが何度も露わに。

 

…誰もがびしょびしょになって、さんざん笑い転げながら、水かけはお開きとなりました。僕は1年たちと片付けをしながら、4年生たちとこうしていられるのも、あと僅かなんだな…と考えていました。かつて新入生だった僕に、最初に熱きなるを語ってくれた先輩こそが、この年の団長でした。

 

新潟の風に吹かれながら、永遠にも感じた晩夏の日々。10日ぶりの大学に着くと、何故か団室がとても小さく見える。思えば個人特訓に始まった前練習から、足掛け1ヵ月。夏休みを放り出して、ため息重く練習に臨んだことが遠い日のように感じます。自宅への帰路、僕はいつものように新宿で京王線を降りました。乗換えの埼京線ホームは帰宅ラッシュの人波。見慣れた景色でしたが、そこは自分の居場所じゃないような気がしました。ずっと離れていた日常に、すぐには馴染めなかったせいかもしれません。

 

帰京した翌日からは、いつもの生活が訪れました。

野球の秋季リーグ戦は近い。御礼状や合宿終了の通知も発送しなきゃならない。講義の課題レポートも残されている。先の時間を考えれば焦りもあるけど、今はどうでも良く思えました。

試練が人を成長させる。それからの僕はリーダーを演じる度に、夏合宿の出来事を心の片隅に思い出していました。

そして東京にも秋が近付いていました。